2012年12月6日木曜日

大江氏が紹介する魯迅の言葉


 『図書』誌2012年12月号の大江健三郎さんの「親密な手紙」欄は、「希望正如地上的路」と題して、魯迅の次の言葉を紹介しています。

 希望は、もともとあるものとも、ないものとも言えない。
 それはまさに地上の路(みち)のようなものだ。
 本来、地上に路はなく、歩く人が増えれば、そこが路になるのである。

題名は上記の二行目のもとの中国語表現です。大江氏は大学生時代にこの言葉に出会ったとき、感動したが引っかかりもしたということです。その気持を「二行目からの、魯迅の比喩展開のスピードについて行けず、一行目にノロノロこだわっていたのだった」と記しています。確かに、希望を路に例えるのは飛躍があります。魯迅は、「希望」を単にばくぜんとした望みでなく、実現へと確実にたぐり寄せるべき目標ととらえ、その方策をも示唆するものとしてこの言葉を書いたのでしょう。

 大江氏は反原発の大きい集会でこの魯迅の言葉を読み上げ、さらに「反・原発の世論が圧倒的であるのに(原発がある自治体、経済界、米国に配慮して、という)政府の無視があきらかとなる中でのデモにいた」[注:原文では()内の言葉に傍点をつけて強調してあります]と記しています。多くの人たちの歩く路が無視されることのない政治をこそ、私たちは選ばなければなりません。

多幡記